安くて掃除や洗濯、料理と幅広く使える重曹。怪しい響きですが魔法の白い粉なんて言われることも。メディアも忘れた頃に特集をしていたりしますよね。
でもなんでホットケーキを膨らましたり、油汚れを落としやすかったり、脱臭できたりするかとか分かりますか?ホットケーキ(カルメ焼きでもいいです)くらいは義務教育で習っているはずなので分かってて欲しいところですけど。
というわけで今回は重曹の活用法を紹介しながら、化学的にその効果を説明していこうと思います。
巷で話題の重曹の活用法 簡易まとめ
- 頑固な油汚れの除去
- お酢やクエン酸と組み合わせて排水口のぬめり取り
- 洗濯槽の汚れ・カビの除去
- 茶渋などのシミとり
- 生ごみや冷蔵庫内、靴箱などの消臭・脱臭
- シルバーアクセサリーのお手入れ
- 洗濯用洗剤の代用
- ホットケーキ等をふくらませる
- 天ぷらを上手く揚げることができる
- 山菜や筍などのアク抜き
- 煮豆をふっくらさせる
- 鶏ももなどお肉を柔らかくする
- 野菜の発色をよくする
- 魚のぬめり取り
- 農薬の除去
- クエン酸と混ぜることで炭酸水ができる
- 入浴剤としてお風呂に入れて美肌効果
- 歯磨き粉の代用
- 洗顔でニキビケア
- 園芸などで酸性土壌を中和する安全な農薬
- 消火剤
※食用目的で重曹を使う場合は必ず"食用可”と書いてある物を使ってください。また必ずしもここに記した活用法すべてが有用とは限らないないので試すのであれば自己責任でお願いします。
重曹の基礎知識
そもそも重曹とは化学式NaHCO3で表される炭酸水素ナトリウムのこと。昔は重炭酸ソーダ(曹達)と呼ばれていて、それを略して重曹って名前がついています。
豆知識ですがsodaはナトリウムの英名sodiumの化合物を総称した物で、例えば水酸化ナトリウムのことを苛性ソーダって書いてある教科書とか見たことあると思います。ソーダと言ったら圧倒的多数の人が飲み物の方を想像すると思うけど、こいつも重曹から作られていた事に由来するんです。
重曹の一つの特徴としては、水への溶解度は小さく水溶液は弱塩基性を示す、つまり重曹は水にあんまり溶けないけど溶けたらちょっとだけアルカリ性になることがあげられます。
式で記述するとこうなります。
HCO3− + H2O ⇔ H2CO3 + OH-
HCO3− + H2O ⇔ CO32− + H3O+
少し専門的だけど酸解離定数を考えるとそれぞれ6.3、10.3なので、pHが8.0から8.5程度となることが分かります。化学をとっている高校生なら初期濃度を適当な値にして実際に計算やってみるといいかも。
また熱分解して二酸化炭素を発生することも有名です。反応式は以下の通り。
2NaHCO3 → Na2CO3 + H2O + CO2
粉末は270℃以上で二酸化炭素を発生しながら炭酸ナトリウムNa2CO3に分解、水溶液は65℃以上で急速に同様の分解が進みます。
知ってのとおりこれがベーキングパウダー、ふくらし粉の基本的な原理です。中学校の理科か家庭科でカルメ焼きを作ったことを覚えている人も多いかと思います。天ぷらをプロさながらに揚げることができるのも同様な話です。
ただし熱分解で生成された炭酸ナトリウムは水にそこそこ溶け、水溶液はpH11程度のわりと強めの塩基性であることから苦味の成分になってしまうので注意が必要です。アクが苦いのも同じように塩基性であるため。ちなみに酸性だと酸っぱく感じます。
市販のベーキングパウダーで作ったホットケーキは苦くないよ、と言うのは酒石酸とかその他もろもろ一緒に入っているためなので、中和する酸性のものを使わないで重曹オンリーをふくらし粉として使うのはあまりおすすめできないかもしれません。入れすぎなければさほど問題無いですけど。
もう一つ、酸と反応することで二酸化炭素を発生することも知っておくべきです。例えばお酢(酢酸)と反応させると以下の様になります。
NaHCO3 + CH3COOH → CH3COONa + H2O + CO2
要は酸と中和させてやることでも二酸化炭素を発生するということです。重曹の由来のところでも述べたように自宅で炭酸水を作るときには、クエン酸と混合する手法がよくとられます。砂糖を入れてやればサイダーっぽいものになりますし、レモンやはちみつなどを入れても美味しいですよ。
ここまで中学の理科で習うような話だけど、これだけでも上でまとめた活用法をいくつか説明できちゃいます。義務教育ってやっぱ大事だわ。
加水分解反応で油汚れを石鹸に変える
こちらは高校の有機化学で習う反応を使います。人によっては少し難しいかも。
脂肪とアルカリが反応すると高級脂肪酸塩とグリセリンに加水分解します。これをケン化(鹸化、saponification)と言います。高級脂肪酸塩は私達のよく知っている石鹸の主成分、つまり油にアルカリ性のものをぶち込んだら石鹸が出来上がりという大雑把な理解で大丈夫です。
例えば塩基として水酸化ナトリウムを用いた場合の反応式は次のようになります。なおRは適当なアルキル基を示しています。
R-COOCH2CH(OOC-R)CH2OOC-R + 3 NaOH → 3 R-COO-Na + C3H5(OH)3
重曹と油汚れの反応もこれと同じ現象が起こるわけです。
じゃあ石鹸になったらなんでいいの?という純粋な疑問がでるのも自然な話ですよね。これは高級脂肪酸塩がミセルというものを形成して水に分散するため。以下で簡単に説明します。
高級脂肪酸塩は親水性、つまり水に溶けやすく油に溶けにくいカルボン酸部分(図の緑)と炭素鎖が長く続いた疎水性・親油性、つまり水に溶けにくく油に溶けやすいアルキル基(画像のオレンジ)で構成されたちょっと変わったやつなんです。界面活性って聞いたら何となく知っている人も多いと思います。そう、洗剤の後ろに書いてある界面活性剤の界面活性です。
この高級脂肪酸が水の中で油に出会うと、図のように油に親油性の長いアルキル基を向けてカルボン酸部分が水側に向いた状態のミセルという玉を作ります。この状態となることで、"溶ける"という表現は正確ではないですが油が水に溶けるようになるわけです。分散という表現が正確な気がします。
市販の石鹸、洗剤もこのような原理で油汚れを落とします。
ここまでで重曹が油汚れを落とすことは理解出来ました。素晴らしい!感動した!
・・・でも市販の洗剤でよくね?
環境負荷が小さいという利点も油を落としてそのまま垂れ流していては元も子もないし、拭きとって可燃ごみとして捨てるのであれば重曹の利点って薄いですよね。私個人はこんな回りくどいやり方をするぐらいならどこの家庭にでもある洗剤を使ったほうが手軽で経済的だと思うんですけど、どうですか?
タンパク質を加水分解してお肉を柔らかくする?
水酸化ナトリウム水溶液を素手で触ってしまい手がヌルヌルして指紋がなくなってしまったという経験がある人もいるのではないでしょうか。
アルカリ性の物質は油同様タンパク質も加水分解してしまいます。タンパク質を加水分解すると、タンパク質を構成するアミノ酸同士をつなぐペプチド結合を切断してアミノ酸やアミノ酸が連なったペプチドになります。反応は以下のとおり。
ちなみに酸や酵素を使ってもこの反応は起こります。
重曹のアルカリ性は非常に弱いため肌で感じることは難しいけど、例外じゃありません。
この性質を利用することで、鶏胸肉などお肉を柔らかくするという方法があります。方法は簡単で、一晩重曹水につけておき、火を通す前に水でよく洗い流してから普段通り使うだけ。熱分解を忘れてはダメですよ。
確かに柔らかくはなりますが...えーっと...味は保証しかねます。洗い残しがあると苦味が凄くてどうしようもないので気をつけてください。
正直甘めの料理ならはちみつとか果物を使うとか、料理によっては塩麹を使うとかもっとナチュラルな調理法の方が断然美味しいと思います。そんなに手間じゃないしね。
ちなみに煮豆や水溶性のアク抜きなども同様の原理ですが、加熱によってアルカリ性の強い炭酸ナトリウムとなるためよく洗いましょう。水溶性のビタミンなんかは分解されてしまうので注意。
重曹は適度に柔らかい研磨剤
重曹は水に溶けにくい塩であることは既に説明しました。つまり、溶け残った重曹の粒子が研磨剤として働くわけです。化学的にダメなら物理的に削ぎ落としてやろうっていう戦法です。
重曹の粒子のモース硬度は2.5程度と硬すぎず柔らかすぎずという絶妙な硬さで、磨く対象のものを傷つけにくいという特徴があります。ちなみにモース硬度とは物質の硬さの指標の一つ(硬さの定義は色々あって結構ややこしい)で、傷のつきにくさをダイヤモンドを10としてレベル分けしたもの。
ただし、傷がつきにくいといってもあくまで研磨剤なので柔らかいもの、特に洗顔などには不向きです。茶渋や紅茶でくすんだコップや窓掃除なんかに使いましょう。
中和することで酸性の臭いを抑える
悪臭の主な原因としてアンモニア臭に代表される窒素化合物、汗や体臭などの脂肪酸系の物質、糞尿などの硫黄化合物の3つに分類されます。重曹はすべての悪臭を抑えることができるわけではなく、脂肪酸系の酸っぱい臭いと硫黄化合物の腐敗臭を抑えることができます。
これは酸性の臭いの元物質に弱アルカリ性の重曹をかけることで、水と二酸化炭素を発生しながら中和するためです。もう一度お酢と重曹の反応を示すと次のようになります。
NaHCO3 + CH3COOH → CH3COONa + H2O + CO2
中和と言われてもこの式なんかモヤっとしますよね。この反応別に臭いの元物質が分解されたわけじゃないですよね。
そもそも臭いとは何かと言われると、気化した臭いの元物質そのものです。つまり臭いの元物質がなくなるわけじゃないけど、分子をイオン化させてやることで気体になるのを抑えることができるという寸法。イオン結合性の物質は沸点が高いために気化しにくいですからね。
重曹のアルカリ性は非常に弱いので、衣服等の布製品にも使えなくはないですがやめておいたほうがいいでしょう。畳や毛皮なんかもやめておくべきだと思います。アルカリ性故にタンパク質は少なからず分解されますからね。
その他
- 野菜の発色が良くなる
- こちらは重曹と反応することで葉緑素のクロロフィルがクロロフィリンに変化するためですが、アルカリ性故に水溶性のビタミンを破壊してしまうので注意。
- シルバーアクセサリーのお手入れ
- 硫化銀を還元する方法として世間一般ではアルミと重曹を使うことに意味があるように言われているけど、重曹は補助電解質、分かりやすく言うと電気化学反応を進行させやすくする物質として働いているだけなので別にそこら辺にある食塩で十分。なので今回は割愛。
- 入浴剤
- アルカリ温泉と言った具合でしょうか。入浴剤に実際に入っていたりします。お肌の弱い方の長期利用はやめておいたほうがいいでしょう。
- 消火剤
- 熱分解によって生成されたナトリウムイオンと燃焼反応で生じる遊離基(OH•、H•)が結合することで燃焼の継続を抑制するらしいです。また二酸化炭素の発生も効果的。安価なことから実際に化学消防車等で利用されています。
いかがでしたか?こうしてみると重曹って汎用性があって凄い便利って思うけど、個人的には必需品かと言われるとそこまで有益とは思えない気がします。あくまで最善策ではないけど手持ちのものでも代用できる程度の認識がやはり大事だと思います。
最後にもう一度念を押しておきますが、重曹を活用する場合はその化学的な性質を理解した上であくまで自己責任で利用してくださいね。
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wikipedia 「炭酸水素ナトリウム」
Chem-Station 「「重曹でお掃除」の化学」
アンチエイジングの神様 「知らないと損をする「重曹」の活用法・裏ワザ14選 / 保存版」